新潟地方裁判所 昭和29年(行)21号 判決 1957年4月12日
新潟県中蒲原郡白根町大字上新田五百七十七番地
原告
川村広義
新潟市上大川前通八番町
被告
新潟税務署長
市村安夫
右指定代理人
大蔵事務官 星野圭
森隆平
右当事者間の昭和二十九年(行)第二一号所得税返還請求事件について、当裁判所は、つぎのとおり判決する。
主文
1 原告の本件課税処分の取消を求める訴はこれを却下する。
2 原告その余の請求はこれを棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、「被告が昭和二十四年十一月三十日付でした原告の父亡川村半七に対する昭和二十四年度分所得税額金六万四千五百円、同加算税額金千七百六十九円と決定した課税処分を取り消す、被告は原告に対し金四千円の支払をせよ、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、
「一、被告は、原告の父亡川村半七に対する昭和二十四年分所得税について、同人のなした四月予定申告の予定納税額を昭和二十四年十一月三十日に金六万四千五百円、同加算税額を金千七百六十九円と更正する旨の決定をし、同年十二月三日ごろその旨の通知があつた。
二、しかしながら、右川村半七の同年度分の所得額は、ほとんど皆無にひとしかつたのであるから、右の課税処分は、同人の同年度分の所得金額を誤認した違法の処分である。
三、しかるに原告は、昭和二十五年六月ごろ当時右川村半七の病気その他の雑事に忙殺されていたため、被告に対し昭和二十四年度第一期分所得税として金二千円を、また同二十五年十一月ごろ同じく昭和二十四年度第二期分所得税として金二千円をそれぞれ誤納した。
四、ところで、右川村半七は、昭和二十五年七月十八日死亡したので、原告においてその遺産相続をした。
五、よつて、原告は、被告に対し右一、記載の課税処分の取消を求め、かつ、不当利得返還請求権にもとづいて前記誤納した税金合計四千円の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。」
と述べ、被告の本案前の答弁に対し、原告が本件課税処分に対し被告主張のように所定の期間内に審査の請求をしなかつたことは認める、と述べた。
被告指定代理人は、本案前の答弁として、「原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、原告は、本訴において被告が昭和二十四年十一月三十日付でなした川村半七に対する昭和二十四年度分所得税額金六万四千五百円、同加算税額金千七百六十九円の課税処分の取消を求めているけれども、課税処分の取消訴訟を提起するためには、昭和二十四年法律第七十六号によつて改正せられた所得税法第四十八条第一項の規定による審査の決定を経た後でなければ許されないのである。しかるに原告は、昭和二十四年十二月三日ごろ右課税処分の通知をうけていながら、これに対して所定期間内に右審査の請求をしないで本件訴を提起したものであり、したがつて、本訴は、同法第五十一条第二項本文の規定に違反した不適法な訴であるから、却下せらるべきである、と述べ、
本案の答弁として、
「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、原告主張の事実中、一、の事実、三、の事実のうち原告が被告に対し昭和二十四年度分所得税として、同二十五年六月ごろに金二千円、同年十一月ごろに金二千円をそれぞれ納付した事実はいずれも認めるが、その他の事実はすべて争う。原告は、本訴において昭和二十四年度分の所得税としてすでに納付した合計金四千円の返還を求めているが、前記被告のなした昭和二十四年度分の課税処分が取消権限のある行政庁あるいは裁判所によつて取り消されない以上は、右の課税処分は依然存続しているものであつて、したがつて国は、右の金員を不当に利得したものとして原告に返還すべき何らの義務はない。よつて、原告の本訴請求中右金四千円の支払を求める部分は理由がない。
と述べた。
理由
一、まず、原告の本件課税処分の取消を求める訴の適否について判断する。
本件のような課税処分に不服のあるものは、その通知をうけた日から一個月以内に不服の事由を具して税務署長を経由して所轄国税局長に審査の請求ができることは昭和二十五年法律第七十一号による改正前の所得税法第四十八条、同法施行規則第四十七条等の規定に徴して明らかである。そしてこのように審査の請求ができる場合には、行政庁である被告の処分の取消または変更を求める訴は、その審査の請求をしてこれに対する決定を経た後でなければ原則としてこれを提起することができないことは行政事件訴訟特例法第二条の明規するところである。ところで、前記川村半七は昭和二十四年十二月三日ごろ本件課税処分の通知を受けたが、これに対して所定の期間内に審査の請求をしなかつたことは原告においてみずから認めるところである。
果してそうだとすると、他に特段の事情のない限り、原告の本件課税処分の取消を求める訴は、いわゆる訴願前置の要件を欠く不適法な訴であるといわなければならないから、これを却下すべきである。
二、よつてつぎに、原告の本訴請求中金員の支払を求める部分について判断する。
原告が被告に対して前記川村半七の相続人として同人に対する昭和二十四年度分所得税として昭和二十五年六月ごろ金二千円、同年十一月ごろ金二千円をそれぞれ納付したことは被告の認めるところであるが、被告のなした本件課税処分が取消権限のある行政庁または裁判所によつて取り消されない以上(行政庁によつてこの取消がなされていないことについては、原告の主張自体に徴して明らかである。)は、本件課税処分は依然存続しているものであり、したがつて、国の右利得は法律上の原因があるものというべきであるから、原告のこの点に関する本訴請求は、これ以上判断するまでもなく理由がない。
三、よつて、原告の本訴請求中、本件課税処分の取消を求める部分に関する訴は不適法として却下し、その余の部分の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 唐松寛)